小学校教員が「やりたいことができない」根深い理由

やりたいことができない

先日新卒一年目の公立小学校の教員として働く友人と久々にご飯を食べ、4月からの一学期で感じたこと、考えたことについてを聞いた。彼の語っていたことは一言で言うと「やりたいことができない」ということ。この「やりたいこと」には授業準備、授業外での様々な活動、英語教育、ICT教育が含まれる。それぞれの「やりたいこと」ができないのには根深い理由があることがわかった。今回は友人にインタビューした部分を前半に、私の考察を後半に残したい。

授業準備が十分にできない

授業準備が満足にできない大きな理由は毎月あるなんらかのイベントの運営で勤務後に会議をしなければならないこと、総務・庶務、教務、生徒指導などの分掌組織(これらの仕事は校務分掌と呼ばれる)があり、かなりの数の組織に属さなければならず、それらの会議がそれぞれ頻繁にあるため、気がつくと毎日なんらかの委員会に出席しているような状態になってしまう。

結果、そういった多岐にわたる業務の後に漸く授業準備をする時間が設けられるがそれは既に業務時間を大幅に過ぎた後でかなり疲弊した後にやらざるをえない。さらに小学校教員は全科目を教える必要があるため、一学期目に関しては算数に絞って授業準備、残りの授業に関しては行き帰りの電車の中で考えたり、場合によってはそのまま準備ができずに突入することもあるそうだ。そんな中でも彼はこの夏休みを使って生徒がよりやる気になれる仕掛けを授業や生活に取り入れようと工夫をしている。例えばある単元をクリアするごとに賞状のようなものがもらえ、それをコレクションして更に発展的な単元に進められるようにしたり、というようなことである。

オリジナリティのあることができない

授業でも、授業外でもオリジナリティのあることがやりにくいという状況がある。例えば、算数の授業などで他のクラスの授業では単に教科書に従っているのに対して、自分のクラスだけ異なった教え方をしてしまうと二つのリスクが考えられる。一つが親からの圧力、もう一つが同僚の教員からの圧力だ。

親の圧力については、子供が親に授業内容を告げ、それについて親同士で話をしている最中に、「◯◯先生のクラスだけ違う授業をしている」となるとかなりのクレームの対象になってしまう。「なぜあなたは他の先生と違うことをしているんですか?足並みを揃えてください」と。同僚の教員からの圧力は、「新しく入ったばかりなのになぜ私たちと違うことをやるんだ?」という空気感。これらによって「やりたい」「やってみたい」授業はなかなかしづらく、結果的にただただ教科書に従った面白みの欠ける授業をせざるをえないという。

また、彼のクラスではこんな出来事があった。雨が続いたある日、生徒たちが「黒板で絵を描いて遊びたい」と。彼は「授業開始の時に黒板に絵が書いてあるとスムーズに授業が始められないけどそれはどう思う?」、生徒たちは「黒板を消して、黒板消しも綺麗にして、チョークも並べた状態にしておくから大丈夫です」と答え、彼は認めた。

彼はこれを「問題解決」と捉えたからだ。自分たちでやりたいことを見つけて、それを実現するために守るべきルールを自らで設定するのはまさに問題解決であるし、教室は生徒のためにある以上彼らがみんなで意思決定したものに対して教師は認めるべきだと思っている。実際にこれは現在も行われているのだが、彼自身は他の教師が自分のクラスをいつ通るのかの不安が頭をよぎってしまう。やはり「黒板は授業のためにあるもの」という捉え方が一般的である以上、生徒にお絵かきを許すことは他の教師から見ると「逸脱を許している」ととられかねない。

自らが上の立場になるまでこうしたオリジナルなものはかなりやりにくく感じてしまう空気感というのがどうしてもあるようだ。

英語をやる意味を教えられない

現在、2020年の教育改革に向けた移行期間ということで小学校でも英語教育が行われている。小学校3年生から「外国語活動(英語にとりあえず親しむ)」 が始まり、小学校5年生からは授業が始まる。指導要領によれば6年生の時点では自己紹介・自分の好きなものとその理由、などがスピーチできるようになっている状態が望ましい。

彼のような新卒はまだしも、現在50歳、60歳近い教員にとっていきなり英語を教えろというのはかなり難易度の高い要求だ。正しい発音が何か、英文法は本当に正しいのか、自分は実際に英会話ができない、という状態の中で無理に教えてもその自信のなさは生徒に伝わるし、何より「なぜ英語を全員が学ぶ必要があるのか」という子供の純粋な疑問に全く答えることができない。結局英語を「教科」としてしか教えてあげられないのだ。彼自身も決して海外経験が豊富なわけではなく、「なぜやるのか」を具体的に伝え、中学に入るまでに英語を好きな状態を保ち、それと同時にどう教えるのかについて苦心している。

ICT教育ができない

教室にはテレビも設置されており、動画を流して学習のイメージを膨らませたり、グーグルアースを見せて地理を教える際に様々な場所を現実感を持ってみられる状況が整っているはずなのだが、パソコンを職員室外に持ち出してはいけないというルールにより、教室でパソコンを使うことができず、結果としてこうしたテレビも宝の持ち腐れ状態になってしまっている。まずそもそもパソコンは使えるが職員室にwifiは通っていない。wifiが唯一通っているのはパソコンルームだけである。職員室から持ち出してはいけないのも生徒の個人情報だけではなくパソコン自体教室に持っていくことが許されていない。これは自治体がどれくらいお金を持っているかによっても異なるが、彼の働く自治体はそこまでお金に余裕がないため、個人情報の含まれるPCと授業用に使うPCを分けられず、結果授業にIT器具を全く持ち込めず黒板鉛筆ノートの世界が未だに続いている。

考察

「授業準備に時間を割けない」問題はどの教師の方に聞いても出てくる問題だが、彼自身も強く感じていた。特に校務分掌と呼ばれる多岐にわたるタスクは彼らの準備時間を圧迫している。こういったもののアウトソースの必要性は随分前から議論されているはずだが実際には手がつけられていない状態だ。教員の研修などでは「メンタルヘルスのために風通しの良い職場環境を作りましょう」ということが言われるが、実は風通しの悪い職場環境と同じくらい、「やりたいことができない職場」というのは彼らのストレスになっているようだ。

上司の与える空気感というのも「風通し」に関連するだろうか。彼のいうように「足並みを揃えるべき」という空気感は強く、それゆえに個々人の教員の工夫のようなものが働きにくくなっている。彼の言葉で印象的だったのが、「20年経ったらやりたいようにできる」という言葉だった。確かに個人として20年でやりたいことはできるかもしれない。しかし、もしここからの20年このような空気感が学校にあるとしたらここから先20年の教育環境は全く向上していないということになる。そもそもこの空気感がなぜ生じ、消えることがないのかについて考える必要がありそうだ。

英語に関していうとまずこの改革自体が遅きに失している上に、さらに改革に合わせた準備というのもあまりうまく進まなかったのではという印象を受ける。私の香港人の友人談だが、多くの香港人は幼稚園から英語教育を受け(親によっては生まれてすぐ)、小学校でそこそこ話せるようになり、中学校でかなり流暢に。高校では数学や社会などの科目が英語で行われ、香港の全ての大学の授業は英語で行われている。そうした教育を受けた教員は全員が英語を話せる状態にあるし、移民受け入れが多く、外資系企業でも働く人が多い香港という土地自体が「英語が喋れなければ生きていけない」というモチベーションが湧きやすい場所でもある。

これに比して記事で書いているようにそもそも英語を話せない上に、その重要性もよくわかっていない人が教えざるをえない状況だったり、◯◯市で生まれ育ち、◯◯市内の小学校に通う子供にとって英語の座学はかなり興味を持ちにくいという問題が見えてくる。これに関しては小中連携し、中学の英語教師が小学校で教えることも考えられるが、それもコスト面で簡単ではない。これに対し私は教員養成、ひいては受験システムの段階で英語を話せない・使えない教員が生まれないようにする仕組みづくりを今始めるべきだと感じる。

2020年にプログラミング教育必修化の流れの中で、そもそも授業内でパソコンすらまともに使うことができない状態なのは驚いた。まずは学校内のIT環境の整備から始めた方が良いのではないか。過度な個人情報への危機感がICT利用の機会を奪っているのは勿体なさすぎる。

私は今回のインタビューで現状では特にソフトな面のスキルを育てる場として学校があるのだなと感じた。もちろんハード(ここでは英語・算数・プログラミングなど)もものすごく大事だし、特に塾に通う余裕がなかったりする子供であればあるほど、ハードな面も学校で徹底して教えてあげる必要がある。ただ今現在のシステムでハード面を効果的に教えるのはかなり難しく、時間をかけて教員養成や大学受験から見直す必要がある。更に、ハードなスキルに関しては今後よりどこでも学べる状態が実現していくだろう。

そういった流れの中で、最も重要なのは学ぶ過程で他人と共同して学ぶことにより形成されるソフトなスキル、座学以外の活動でえられるソフトなスキルであるように感じた。一例ではあるが彼の話していたような「黒板と問題解決」についてもそうであるように、人と問題を発見し、解決に向けて一緒に行動するということ自体に学校の意味があるのかもしれない。

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