社会学考察:耳塚寛明「小学校学力格差に挑む、だれが学力を獲得するのか」

社会学考察:先行研究2本目

記念すべき?2本目はお茶の水大学耳塚先生の小学校学力格差について。これまで「教育選抜」の分野において、研究の主な焦点は「機会の不平等」についてで、「学力形成の過程の不平等」については研究が足りていない。耳塚先生はここに着目し、研究することにした。一方で、過去の研究には3つほどの穴があった。一つ目が、分析の際の変数の質の低さ、決定係数(モデルの説明力)の低さ。二つ目が、家庭状況の調査が全て子供への質問紙調査だったこと。家庭環境について詳しく知るには親に直接聞かないといけない。三つ目が調査対象が大都市とその周辺に偏っていたこと。これらの問題を解決する調査研究を行う。

社会学考察:分析の前に

まず、今回の調査ではAエリアとCエリアに分ける。Aエリアは大都市圏で私立中学進学率が14%程度、Cエリアは東北にあり、周辺に私立中学がない。これらの地域に対して、JELSと呼ばれるお茶の水大学が実施する教育リサーチで得たデータを元に分析を加える。今回は中でも算数の正答率に着目していく。

社会学考察:分析1

まず従属変数が「算数学力テストの通過率」、独立変数を「性別、家での学習時間、父大卒、受験塾、補習塾、博物館、親と勉強してるか」として重回帰分析を回す。Beta値(標準化偏回帰係数)が高い受験塾、父大卒、家での学習時間の三つを抽出しステップワイズ分析をしてみる。ここでステップワイズ分析は

 重回帰分析や判別分析の場合,独立変数が多いと実地への適用が面倒になる。独立変数の候補から,予測や判別に有用な順に独立変数を採用するための方法である。まず,最も有用な独立変数を 1 個採用する。次の段階では,まだ採用されていない独立変数のうちで最も有用な独立変数を 1 個採用する。なお,最初のほうで採用された独立変数も,後で採用された変数との関係で不要になる場合があるので,新たな独立変数の採用の前に,すでに採用された変数を取除くかどうかをチェックする。独立変数の採用と除去は偏 F 値による検定で決定される。偏 F 値がある基準値(Fin)より大きければ採用,別の基準(Fout)より小さければ除去される。また,偏 F 値から求められる有意確率 Pin,Pout によっても同様に変数選択を行うことができる。変数選択の過程で,偏 F 値の自由度が変化するので Pin,Pout により変数選択を行うこともある。

今回の場合は、Pvalueの大きさに問題はないか、変数を加えるごとに決定係数は大きくなっているのかを判断材料に変数を選択していく。三つの変数共に統計的に有意だった。一方、Cエリアでは父学歴と家庭での学習時間は有意に出るものの、その決定係数は著しく低い。このエリアでは家庭環境があまり学力形成に大きな影響を持っていないのかもしれない。AエリアとCエリアでは学力形成のされ方が全く違うことに気づく。

社会学考察:分析2

家庭的背景の影響が大きかったAエリアに絞って、保護者への質問紙調査を行った。質問紙ではたくさん質問しているのだが、全てを変数に入れると多重共線性の問題が生じるために適切ではない。ここで多重共線性は

回帰での多重共線性とは、モデル内の一部の予測変数が他の予測変数と相関しているときに起こる状態です。 重度の多重共線性は、回帰係数の分散を増加させて不安定にするため問題となります。 係数が不安定になると次のような影響が生じます。 係数は、予測変数と応答の間に有意な関係が存在する場合でも、有意でなく見える場合があります。

なので、それら質問紙の内容を3つの群に分けて、それら三つの群それぞれに対して算数の通過率を従属変数とした重回帰分析を回し、そこで統計的に有意になったものだけを全体の変数に加え、重回帰分析を再び回す二段階の方法をとった。次に、こうして行った重回帰分析のうち、統計的に有意だった学校外教育支出、保護者学力期待、世帯所得、母学歴、を再びステップワイズ法を用いて児童調査の際のモデルに変数を加えていった。結果、Beta値が大きい順に、通塾、保護者学歴期待、教育費支出、世帯所得だった。これらが算数の通過りつに影響を及ぼしていたと言える。

社会学考察:まとめと感想と批評と

今回の論文ではペアレントクラシー(親によって学力形成が決まってしまう)が進行している現状が浮き彫りになっていた。学歴社会はメリトクラシーが前提になっているから許されるにも関わらず、ペアレントクラシーが進行してしまうと、そもそものベースから格差が生じていることになる。

批評として、最後の重回帰分析で統計的有意性を示した「通塾・保護者学歴期待・教育費支出・世帯所得」、これもこれで相関を持っていそうじゃないの?という部分です。もちろん二段階で重回帰分析を行い、さらにステップワイズで有意性を示さなくなった変数はのぞいているので根拠はあるのだと思います。しかし、世帯所得と教育費支出は相関がありそうだし、教育費支出と保護者学歴期待・通塾もそれぞれ相関がありそう。これは問題にならないのだろうか???

とはいえ、保護者にも調査を行い、量的にペアレントクラシーを示している点で、ものすごくためになる論文でした。

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