遺伝子の真実~日本人の9割が知らない遺伝の真実レビュー~

「日本人の9割が知らない遺伝の真実」を読みました

今回は安藤寿康氏の著書「日本人の9割が知らない遺伝の真実」のレビューです。

「日本人の9割が知らない遺伝の真実」が問いかけること①

教育に興味がある人及び自らが恵まれた環境で育った人、また学業成績が優秀な人にありがちな考えとして「努力すれば勉強は誰でもできるようになる」「勉強できないのは努力しないからだ」「私は努力したから優秀な大学に通うことができている」があります。

本当にそうでしょうか?

みなさんは足が速いですか?スポーツは得意ですか?
私は12年間野球を続けていました。正直言ってセンスはかけらもありませんでした(小さいころから指導者に「お前はセンスないなー」といわれたものです)。
一方で足だけは速かった。努力をしたかといわれると答えはNoです。確かに筋トレもしたし栄養に気をつかったりしましたが元から速かった要素のほうが強いです。

「日本人お9割が知らない遺伝の真実」が問いかけること②

なぜ勉強の出来不出来に遺伝の議論を持ち込むことがタブー視されるのか

私は勉強には確実に才能が関与していると考えています。それを軽視する傾向が世の中にあることを常々感じます。みんな自分の努力を正当化したいのです。しかし才能を持ち込まずに議論を進めると「勉強できない人=努力しない人」という図式が自然と導かれる危険性があると思うのです。これがひいては勉強は苦手だけどその他の部分でたくさんの才能がある子が「私は努力が足りないからうまくいかないんだ・・」といった劣等感を生み出す、自己肯定感を下げる一因にもなってしまうかもしれません。私の体験ではこんなことがありました。

野球部に所属していた私は高校時代必死で自宅でトレーニングに励むなりなんなりしましたが周りからの評価は決まって「お前は努力しない」でした。結局結果が伴わない努力ははたから見たら努力にならないのです。あなたが努力をしていないと規定している周囲の勉強が苦手な知り合いは本当はあなたより努力をしていたかもしれない。でも才能の差であなたの方ができただけかもしれない。

「日本人の9割が知らない遺伝の真実」レビュー

さて本書では病気、知能、運動能力などを遺伝学から捉え直しています。ここで強調したいのは「才能がないから勉強しても無駄」ということではなく「才能ある部分を見つけその部分を伸ばす教育をするべき」ということです。子ども本人は自分の適性はわかりません。どんな方法で学ぶのがよいのかわからないのです。適性を見つけそれに合わせた教育を行うことで子どもが能力を100%発揮し生きやすい世の中が実現するかもしれないのです。理想は才能や適性を把握した状態で外部環境(家庭、学校、塾、習い事)を最適化していくということでしょう。以下いくつか印象に残った部分を書いていきます。

本書で取り上げられている学問は行動遺伝学という学問分野です。著者によると「見えにくい能力や性格への遺伝の影響を明らかにする科学」のことを指します。生物学というよりは社会科学の計量分析に近いことをやっているような印象を持ちました。例えば遺伝の影響を論じるうえで一卵性双生児と二卵性双生児の比較研究を何度も引用していたのですがこれは経済学の分野でも行われている研究です。

行動遺伝学の研究によると「別々に育てられたとしても一卵性双生児の形質はいっしょに育てられたきょうだいや二卵性双生児のそれよりも圧倒的に類似性が高い」らしいのです。つまり、特殊事情により別々の環境で育てられた一卵性双生児のほうが同じ家庭で育てられたきょうだいよりも似ているということなのです。これは生まれ持った遺伝子がその子の知能や心理特性に大きな影響を与えていることを示唆します。

教育の観点からはこのような結果が導かれていました。「IQは70%以上、学力は50-60%の遺伝率があります。」「学力の場合、さらに20-30%程度共有環境の影響が見られます。」「つまり、学力の70-90%は子ども自身にはどうしようもないところで決定されてしまっているのです。」これが本当だとしたら救いようのない世の中だなあと思います。共有環境(≒家庭環境)が20-30%はつまり家庭内で親がどれだけ文化資本や経済資本を子どもに提供してあげたかが関連していて、残り10%程度が非共有環境(≒学校など外部環境)
で構成されている。でも結局所得が高い世帯の子どもはその非共有環境が私立中学にいくなどして高められ、そうでない子どもは非共有環境を良いものにできない。さらにIQでも約30%が非共有環境で決まるが、その30%の非共有環境を決めているのは世帯収入だったりする。ちなみに教師が学力に及ぼせる影響は平均して2-4%しかないらしい。衝撃的。。

収入に関してもこんな記述がありました。「収入の42%が遺伝、8%が共有環境、50%が非共有環境」「就職し始める20歳ぐらいのときは遺伝よりも共有環境がはるかに大きく収入の個人差に影響している」。これはなんとなくわかる気がしました。就職段階は親からの意見やコネなどが選択に少なからず大きいのでしょう。一方で年齢が上がるにつれて共有環境の説明力は低下し遺伝の説明力が上昇していくそう。親の力でなんとかなるのは就職までってことなんでしょうか。年を取ってくるとその人自身の能力がより試されてくるということかもしれません。

さて、この本では他にも性格、人間の行動全般、親の与えられる影響の低さ、勉強する意味、個々人の才能を見定めることの大切さなどが書いてあります。面白い視点だと思うのでぜひ読んでみてください。

「日本人の9割が知らない遺伝の真実」を読んだ感想

勉強ができることが素晴らしいことを意味するとは限らないしその人が他の分野でも才能を発揮するかなんてわかりません。恐らく目に見えやすい、見えにくいの差はあっても一人ひとり長所短所がありその長所の部分を見つけて育めば効用の高い生活が送れるのかなと思います。ただ、勉強ができる・頭が良い、などということが直接収入や学歴、社会的評価・地位に結びつきやすい世の中になってしまっているのでそれを価値判断にして学校教育も世の風潮も進みがちです。案外教育に携わろうとしている人ほど努力至上主義になりがちで頑張れば何でもできる!という大嘘を子どもに垂れ流していらない劣等感を植え付けてしまっているのかもしれません。

私の研究分野から言えば、IQに大きな影響を及ぼす非共有環境と学力に大きな影響を及ぼす共有環境をいかに均等化してあげるかが重要だと思いました。結局スポーツをするにしろアートの世界に挑むにしろ遺伝の影響はまぬかれず、残りを教育という形で機会を均等にするのであれば、どの学校に行っても環境が恵まれている、どの家庭に生まれ落ちてもかけてもらえる教育費は大体同じ、という状況が広義の教育の平等であって、少なくともよく言われるみんな一緒にゴールするのがいいという価値観はスタートラインの時点で差がついている状態で重要視してはいけないのではと感じます。解決策は思いつかないのでしばらく寝かせようと思います。

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